研究紹介 | 先端的宇宙機推進

先端的宇宙機推進についての研究をご紹介します。

・太陽風を利用した宇宙機推進:磁気プラズマセイルの研究
・無電極プラズマスラスタの研究開発
・電磁プラズマ力学(MPD)アークジェットの研究開発
・イオンスラスタ数値寿命解析ツールの研究開発
・電界放出型イオンスラスタ(FEEP)の研究
・レーザーマイクロスラスタの研究

太陽風を利用した宇宙機推進:磁気プラズマセイルの研究

磁気プラズマセイル磁気圏の概略図図1:磁気プラズマセイル磁気圏の概略図

磁気プラズマセイル(Magnetoplasma Sail, MPS)は、太陽から宇宙空間に絶えず吹き出しているプラズマの風 - 太陽風 に乗って進む宇宙版ヨットです。

 MPSでは、プラズマが荷電粒子(+ーを持つ)であることを利用し、磁場によって宇宙機周囲に磁気圏と呼ばれるバリア(障壁)領域を形成し、 この磁気圏をセイル(帆)として、太陽風を受け止める際の反力を推力とします(図1)。
そのため、リソースの限られた宇宙機でどのようにして大きな磁気圏を形成するかが重要な技術になります。 MPSでは、風船を膨らますよなイメージで、プラズマを磁気圏内部で噴射し磁気圏を拡大する - 磁気インフレーション により打ち上げ可能なサイズの衛星での大推力化(1N級)を目指します(図2)。

当研究室では、MPSの宇宙機実証を目標に、実験シミュレーション(図3)、数値シミュレーション(図4)を用いて 磁気インフレーションによる大推力化、姿勢制御則の構築などを行っています。

磁気プラズマセイル衛星のフライトイメージ図2: 磁気プラズマセイル衛星のフライトイメージ
(Kajimura, AIAA 2010-6686)
磁気インフレーションの数値シミュレーション図4: 磁気インフレーションの数値シミュレーション
(Fujimoto, 2010)
磁気プラズマセイル地上実験システムを用いた実験の様子図3: 磁気プラズマセイル地上実験システムを用いた実験の様子
(Ueno, STEP 2011-009)


無電極プラズマスラスタの研究開発

この研究の目的は、5年や10年といった長時間動作が可能なプラズマスラスタを実現することです。
従来のプラズマスラスタであるイオンエンジンなどは加速電極とプラズマが接触することが寿命を決める原因と
なっていました。従って、研究の課題は無電極でプラズマを生成・加速することです。

無電極プラズマスラスタの概略図図1:無電極プラズマスラスタの概略図



図1は当研究室で研究しているプラズマスラスタの概念図です。
プラズマとその生成や加速のための電力を供給するアンテナは放電容器で隔てられており電極とプラズマが非接触です。



プラズマ放電の様子図2:プラズマ放電の様子



現在地上試験での性能評価を目指して実験を進めています(図2)。



HEATプロジェクト図3:HEATプロジェクト


この研究は東京農工大学、東海大学、九州大学、ウクライナINRとの共同研究としてHEAT(Helicon Electrodeless Advanced Thruster)プロジェクトの通称で進められています(図3)。


HEATプロジェクト説明文のリンク:
http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/12_kiban/ichiran_21/j-data/j67_shinohara.pdf



電磁プラズマ力学(MPD)アークジェットの研究開発

矩形型スラスタの検証実験の様子と推進性能予測ツールの計算結果図:矩形型スラスタの検証実験の様子と推進性能予測ツールの計算結果

MPD(Magnetoplasmadynamic)スラスタは、
電磁加速型の電気ロケットで、比較的大きな推力密度を達成可能で,将来宇宙機のメインエンジンとして期待されています。
このスラスタは、同心同軸形状あるいは矩形型の電極を持った構造になっています。 電極間で放電を起こすと、流入推進剤がプラズマ化とするのと同時に、周方向に自己誘起磁場が生じます。 この放電電流と自己誘起磁場によって発生するローレンツ力によりプラズマ化された推進剤を加速・噴射します。

本研究は、MPDスラスタの実用化を目的として、
MPDスラスタの高効率化(電力から推進パワーへの変換効率の向上)や、MWクラスのMPDスラスタの熱設計などに取り組んでいます。
そのために、推進性能予測ツール(数値計算)の開発や真空チャンバ内での検証実験などによって、
研究を進めています。



イオンスラスタ数値寿命解析ツールの研究開発

イオンエンジンの加速グリッド耐久性能評価の概要図:イオンエンジンの加速グリッド耐久性能評価の概要

イオンエンジンの開発では、推進力を大きくすることはもちろん、寿命を評価することも重要です。ところがイオンエンジンの寿命は1万時間(約1.1年)以上と長く、実験をすることは大変です。そこで、シミュレーションが大きな役割を担います。下の図は、シミュレーションを使って、イオンエンジンを1万5千時間使った時の3枚の板の穴(1つ分)の大きさ(損耗具合)を解析で予想したものです。たくさん削れて穴が大きくなると、プラズマを加速して噴出することできなくなりイオンエンジンの寿命がきます。この時間をシミュレーションで評価するツールの開発、およびツールを用いた寿命評価を実施しています。

詳しくはこちら→JIEDIツールのページへ(予定)



電界放出型イオンスラスタ(FEEP)の研究

図:FEEP実験室モデル

DECIGO/DECIGO pathfinderに最適な姿勢制御用スラスタ候補として、電界放出型イオンスラスタ(FEEP)のシステム設計と、性能評価基礎実験を実施しています。防衛大学との共同研究です。



レーザーマイクロスラスタの研究

繰返しパルスレーザー光を金属等のターゲット(推進剤)に照射しながら推力を得る小型レーザー推進機の実験実証を行っています。レーザー出力オンと共に直ちに推力が得られ、更にレーザー出力(正確には周波数)変化に応じて線形に変化する推力を高い応答性をもって生成可能な推進機は、太陽光圧等宇宙機に作用する外乱を高精度に補償するドラッグフリー宇宙機や高精度フォーメーションフライトミッションにて不可欠なものです。

レーザー推進試験装置図1:レーザー推進試験装置
パルスレーザー推進の実験の様子図2:パルスレーザー推進の実験の様子